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定例会レポート:大労働紛争取扱年間50件の弁護士が教える労務トラブルの対処法


2024年1月26日、第217回JLP定例会が開催されました。

今回の講師は弁護士石田慎也先生(中ノ島中央法律事務所所属)です。テーマは「労働紛争取り扱い年間50件の弁護士が教える労務トラブルの対処法」でした。

小学生の時には弁護士になりたいと考えていた石田先生。石田先生が住んでいた芦屋は人権教育が進んでいた地域で、そこで弁護士に憧れたということでした。

当初は労働者側の立場の弁護士を考えていたのですが、現在所属されている事務所に修習に行った際にリクルートされて、会社側の案件をするようになりました。会社側の労働問題を扱う場合、個々の労働者とのミクロな視点だけでなく会社全体の大局的な視点、中長期的な視野で考えて対応していくことにやりがいがあるということでした。特に労働事件は白黒がはっきりつかずにバランスの取れた解決をすることが大事だとおっしゃっていました。

労働法には3つの特色があります。

1つ目が労働者を保護する法律ということで、会社にとって不利なルールになっています。

2つ目が夢見る法律という性質があり、労働法令を完璧に遵守することは大企業でも非常に難しいです。ただ、昨今のコンプライアンス遵守の社会情勢からして、会社の実情とコンプライアンスとの調整をいかにするかが大事になってきています。

3つ目は抽象的な概念の塊ということです。例えば解雇が無効となる要件についても非常に抽象的でわかりづらいと言う点が挙げられるということでした。

近年の労務トラブル傾向として、ハラスメントが増えていること、メンタルヘルス系が増えていること、合同労組が関わってくる案件が増えている、とのことでした。

まず、ハラスメント対応については、会社としての対応を誤ると従業員がメンタルヘルス不調となり休職や退職につながりかねないこと、また企業のイメージも悪化したり、最悪損害賠償責任を負うリスクがあります。パワハラやセクハラにならないよう十分注意することは重要ですが、パワハラについては業務の上で指導や注意は当然必要なので過度に萎縮してはいけないというお話が大変印象的でした。そして、ハラスメントの申告があった場合には、放置することは許されずしっかりと調査をしなければならず、申告をした従業員のプライバシーに配慮しながら対応する必要があります。調査の結果、仮にハラスメントに該当しないと言う場合でも、会社としては環境調整をすることが大事ということでした。

次にメンタルヘルスです。特に問題となるのが主治医と産業医とで復職できるかどうかについての判断が分かれることがある場合で、裁判所は従業員の病状に詳しい主治医の意見を尊重する傾向にあるということでした。会社側としては、本人の同意を得て、産業医から主治医に対して照会を行ったり、業務内容を説明するなど詳細な事実を踏まえて復職可否について診断してもらうことが大事ということでした。

最後が解雇や雇い止めに関してです。能力不足を理由とした解雇や雇止めは非常にハードルが高いところをまず認識しないといけません。解雇ではなく退職するよう促す退職勧奨は可能ですが、勧奨するにあたって虚偽を伝えた場合には、退職の効力が否定される可能性があります。また、長時間にわたって執拗に勧奨することもアウトです。従業員が退職する旨の合意書に署名捺印したとしても、裁判所がその効力を覆すこともあり得るので注意が必要です。退職勧奨に基づく退職が有効となるための工夫の1つとして、合意書をその場で書かせるのではなくて、一旦持ち帰って検討させる等の方法があるということでした。

石田先生として労働案件については予防法務が非常に重要と考えており、社会保険労務士法人や税理士法人等と連携してセミナーや労務関係の相談に当たり、トラブルになる前からの対応を意識しているとのことです。

企業側の立場での労務対応は体力的・精神的にも大変厳しく難しい分野ですか、その最前線で対応されているプロのお話は大変迫力がありまた説得力もあり非常に勉強になりました。定例会の後は懇親会もあり大いに盛り上がりました。

石田先生、ありがとうございました。